LiteBIRD 宇宙望遠鏡

LiteBIRDはJAXA主導の宇宙望遠鏡計画で、34-448 GHzのマイクロ波・ミリ波帯域で3年間宇宙全天のCMBを隈なく観測します。特にCMBの偏光観測に特化して設計されており、CMBのBモード観測を目的とした世界初・世界最高感度の宇宙望遠鏡として2032年度に打ち上げが予定されています。LiteBIRDの観測からCMBのBモード偏光の強度が明らかになれば、Bモードの起源である原始重力波の強度(テンソル・スカラー比 r)を推定することができ、我々の宇宙を形作ったインフレーション模型を特定することが可能となります。

LiteBIRD での系統誤差の研究

世界中の大学および研究機関が共同で推し進めているLiteBIRD計画の中で、我々石野研究室は“系統誤差解析”に責任を持っています。系統誤差とは、測定装置に起源を持つ誤差であり、物差しで例えると目盛りそのもののズレのようなものです。測定回数や測定時間を増やせば小さくなっていくような統計誤差とは異なり、丁寧に長い時間をかけて測定しても系統誤差は本質的に無くなりません。ただし、何らかの方法で目盛りのズレに気づき、ズレの大きさを知ることができればその影響を小さくしたり、無くすことが可能になる場合があります。

LiteBIRDにおいても、検出器の利得や観測方向の不定性など様々な系統誤差とその要因が考えられており、我々は系統誤差の数理モデルを構築し、シミュレーションによる数値計算で特定の系統誤差がBモード偏光観測に与える影響を見積もり、観測機器への要求精度を算出しています。また、高度な数学的手法を用いて真の信号と系統誤差を分離し、CMB偏光観測を高精度化する新たなデータ解析手法の開発にも取り組んでいます。

データ解析で GPU を活用する研究

系統誤差のシミュレーションにおいて我々はGPU(Graphics Processing Unit)も活用します。CMBのデータ解析には、膨大な量の計算が必要とされ、高速かつ効率的な処理が求められます。GPUはその高い並列処理能力により、一度に多くの計算を同時に実行できるため、大規模で複雑な計算を劇的に効率化し、従来のCPUでは非常に時間がかかる計算を迅速に実行することができます。これにより、解析時間が大幅に短縮され、より効率的にCMBのデータ解析が可能になります。

前景放射の分離・除去手法についての研究

宇宙にはCMBに限らず、様々な起源を持つマイクロ波が存在しています。これらはCMBが背景であるのに対し、前方に存在することから“前景放射”と呼ばれます。CMBを観測する際には前景放射が混じって観測されるため、この前景放射を分離または除去する必要があります。前景放射の強度はCMBに対して非常に強いため、CMBのみを観測するためには前景放射を高精度で分離・除去する手法が必要です。分離・除去手法は多岐に渡りますが、基本的にはCMBと前景放射が異なる性質を持つことを利用します。宇宙のインフレーションを検証するためには、CMBの偏光を高精度で測定することが求められます。このため、我々はCMBと前景放射を高精度で分離・除去することを目指して研究を行っています。

前景放射とは?

原始重力波によるインフレーションモデルの検証のため、次世代のCMB偏光観測実験では高精度なBモード偏光の観測が求められています。そのため、我々は観測データから高精度で前景放射を分離・除去する手法の開発を行っています。

このページでは前景放射分離・除去の研究についてご紹介します。
まず初めに、前景放射は宇宙に存在するマイクロ波を指しますが、観測の妨げになるのは、天の川銀河に存在する天体からの放射になります。これらの前景放射はCMBのB モード偏光よりも強度が非常に強く、大角度スケールに渡って偏光しています。偏光における前景放射の主な成分として、低周波側ではシンクロトロン、高周波側ではダストが支配的となっています。前景放射の偏光強度はCMBとは異なり、以下の図のように周波数依存性を持っています。

ダスト(Dust)
銀河系内の星間塵(ダスト)は、磁力線に対して垂直に整列しやすい特性を持っています。このため、熱放射ダストは特定の偏光成分を持ちます。具体的には、ダスト粒子が磁場に沿って整列することで、放射光の偏光が生じ、その偏光の方向は磁力線に垂直になります。

シンクロトロン(Synchrotron)
シンクロトロン放射は、相対論的な電子が銀河磁場の中で螺旋運動することにより発生する放射です。この運動により、電子は広範囲の周波数で電磁波を放出し、結果として偏光を持つ電波が観測されます。この偏光の特性は、電子の速度や磁場の強さと方向に依存します。