研究ハイライト

歪んだカゴメ格子反強磁性体の磁気相図とカペラサイト化合物への応用

フラストレート磁性体は非自明な量子状態を示す系として盛んに研究されています。本研究ではフラストレート系の代表であるカゴメ格子を持つ化合物の磁性を研究しました。現実の系において重要となる格子歪みを考慮に入れた古典スピン模型は、3つの秩序相に加えて、広い範囲でスピン液体相を持ちます。密度汎関数理論に基づくエネルギー射影法を用いて、対象物質であるカペラサイト化合物の磁気的相互作用を見積もった結果、この化合物は非共線形秩序相に位置するという実験と一致した結果が得られました。

M. Hering, F. Ferrari, A. Razpopov, I. I. Mazin, R. Valenti, H. O. Jeschke, J. Reuther

npj Comput. Mater. 8, 10 (2022) <https://doi.org/10.1038/s41524-021-00689-0>

2022.1.20

K2Ni2(SO4)3の2つの結合したトリリウム格子における磁場誘起量子スピン液体

量子スピン液体の候補物質は、通常、スピン1/2の磁性イオンを持つ2次元物質です。本研究では3次元的なスピンネットワークを持つ物資においてスピン液体が実現していることを実験と理論の両面から明らかにしました。K2Ni2(SO4)3は、スピン1のNi2+イオンを持ち、2つの結合したトリリウム格子(頂点共有する正三角形から成る3次元ネットワーク)を形成しています。密度汎関数理論によりNiスピンを記述する有効モデルを導出し、中性子非弾性散乱実験と擬フェルミオン汎関数くりこみ群を用いた解析により、K2Ni2(SO4)3が強い量子揺らぎを持つ3次元物質であることを明らかにしました。また、この物質の持つ小さな磁気モーメントは小さな磁場により消失します。これらのことは、K2Ni2(SO4)3が磁場誘起量子スピン液体であることを示唆しています。

I. Živković, V. Favre, C. Salazar Mejía, H. O. Jeschke, A. Magrez, B. Dabholkar, V. Noculak, R. S. Freitas, M. Jeong, N. G. Hegde, L. Testa, P. Babkevich, Y. Su, P. Manuel, H. Luetkens, C. Baines, P. J. Baker, J. Wosnitza, O. Zaharko, Y. Iqbal, J. Reuther, H. M. Rønnow

Phys. Rev. Lett. 127, 157204 (2021) <https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.127.157204>

2021.9.22

磁場により制御可能なカイラル磁性体のトロイダルモーメント

近年、いくつかのマルチフェロイック物質において、トロイダルモーメントが自発的に配列する秩序が発見されています。しかし、これらの材料のトロイダルモーメントを制御することは困難でした。本論文では、中性子非弾性散乱により得られたBaCoSiO4の非常に複雑な磁気構造を、密度汎関数法により得られた有効ハイゼンベルグ・ハミルトニアンより説明できることを示しました。最も支配的な交換相互作用は、格子を3つの副格子に分割します。さらにDzyaloshinskii-Moriya相互作用によってスピンが傾斜することで、副格子がトロイダルモーメントを持つことが明らかとなりました。このトロイダルモーメントは小さな磁場で向きを変えることができるため、外部制御が可能なトロイダル秩序の実現への新たな道を開くものです。

L. Ding, X. Xu, H. O. Jeschke,* X. Bai, E. Feng, A. S. Alemayehu, J. Kim, F. Huang, Q. Zhang, X. Ding, N. Harrison, V. Zapf, D. Khomskii, I. I. Mazin, S.-W. Cheong, H. Cao

Nat. Commun. 12, 5339 (2021) <https://doi.org/10.1038/s41467-021-25657-6>

2021.9.9

動的平均場理論による多体量子計算を行うオープンソースソフトウェア

化合物の物性研究に第一原理計算は欠かせません。密度汎関数理論に基づく第一原理計算を利用すると、化合物の組成や結晶構造から物質の電子構造が即座に計算できます。しかし、強相関電子系と呼ばれる物質群では、密度汎関数理論による計算が実験を再現しないことが知られています。それらの物質で重要となる電子間のクーロン相互作用による「量子多体効果」が正しく考慮されていないからです。動的平均場理論(DMFT)は密度汎関数理論で足りない量子多体効果を取り入れることができる方法論で、近年その需要が高まっています。
我々のグループは、様々な第一原理計算ソフトウェアの結果から動的平均場計算を行うことができるソフトウェアDCoreの開発に携わっています。このソフトウェアはオープンソースとして公開されており、誰でも使用もしくは改造することが可能です。このようなソフトウェアの開発も重要な研究のひとつです。

H.Shinaoka, J. Otsuki, M. Kawamura, N. Takemori, K. Yoshimi

SciPost Phys. 10, 117 (2021) <https://doi.org/10.21468/SciPostPhys.10.5.117>

2021.5.27

アタカマイトの磁化過程:弱結合ノコギリ状鎖の場合

緑色の美しい銅鉱物アタカマイトは、チリやメキシコだけでなく、日本では愛媛県や山口県、香川県などでも発見されています。アタカマイト中の銅イオンは、非常に歪んだ3次元パイロクロア格子を形成しています。この系における磁性特性は、有効的には1次元のノコギリ状の鎖を形成していることが明らかになりました。その磁化には、飽和磁化の1/2ほどの場所に特徴的なプラトーが現れます。本論文では、このプラトーが有効モデルではこれまで取り入れられていなかった交換相互作用により発現し、磁場中で有効磁気モーメントが傾くことで生じることを解明しました。

L. Heinze, H. O. Jeschke, I. I. Mazin, A. Metavitsiadis, M. Reehuis, R. Feyerherm, J.-U. Hoffmann, M. Bartkowiak, O. Prokhnenko, A. U. B. Wolter, X. Ding, V. Zapf, C. C. Moya, F. Weickert, M. Jaime, K. C. Rule, D. Menzel, R. Valentí, W. Brenig, S. Süllow

Phys. Rev. Lett. 126, 207201 (2021) <https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.126.207201>

2021.5.18

岡山大学 異分野基礎科学研究所/
理学部物理学科

Jeschke・大槻 研究室

〒700-8530 岡山市北区津島中三丁目1番1号

Jeschke-Otsuki group

Research Institute for Interdisciplinary Science /
Department of Physics, Faculty of Science, Okayama University

3-1-1 Tsushimanaka, Kita-ku, Okayama 700-8530

Copyright © Jeschke-Otsuki group
トップへ戻るボタン