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令和 3年度(2021年度)第2回 物理教室談話会

題目 物質・材料科学研究におけるデータ駆動科学
講師 赤井一郎 氏(熊本大学 教授)
日時 令和 3年6月25日(金) 16:30~
場所 オンライン
概要  現在、物性研究や材料研究で行われる先端計測への最新情報科学の有機的な融合は必要不可欠で、その核となる取組がデータ駆動科学である。データ科学は、データに重点が置かれ、そのデータから情報を抽出する科学であるのに対し、データ駆動科学は、データ科学を用いて対象の研究フィールドで学理を構築し、新展開を開くものである。
 物性や材料科学研究では、放射光を用いた様々な先端計測が行われるが、これらの計測では、理論解析と異なって、計測ノイズが重畳するのが必然である。従来因果律にそって、物性を支配する「原因」に基づいて「結果」が決まり、偶然誤差が重畳して計測データが確率分布すると考えてきた。それに対しデータ駆動科学で用いるベイズ推定[1]では、「原因」と「結果」の同時確率にベイズの定理[2]を適用する。これには根本的考え方の反転があり、測定で確定したスペクトルデータを起点として因果律を遡り、「原因」が確率的に分布すると考える。このベイズ推定をスペクトル分解に適用したベイズ分光法を用いると、空間間接型電子・正 孔系における高密度・液滴相安定化[3]や、エピタキシャル成膜で微弱に残留した応力による結晶対称性の低下[4]の統計的確証を得ることができる。さらにデータを説明する物理モデルを、一切の事前情報無しにデータだけから選択するモデル選択[1]も可能である。
 一方データ駆動科学で用いるスパースモデリング(SpM)は、データを与える物理現象が、より簡潔な物理モデルで説明できる前提に立って、データに含まれる少数(スパース)の主要成分を、適切な規範に従って抽出(正則化)する方法[5]である。このSpMは、放射光を用いた広域X線吸収微細構造(EXAFS)計測で有効に働く。このEXAFS振動の解析には、従来フーリエ変換が用いられ、それによって得られる近接原子の動径分布関数を材料研究で活用する。この動径分布関数は、X 線吸収端エネルギーで選択した原子近傍で、その注目原子 に配位する近接原子の分布を表すが、フーリエ変換で得られるものは動径距離に対して連続関数である。しかし、本来近接原子は、材料の化学構造や結晶構造によって特徴づけられる特定の動径距離で配位する。その結果、SpMではそのスパース性を用いることで、データだけからスパースな動径分布関数と、構造ゆらぎや原子の可動性を表すデバイ・ワラー因子を推定することが可能[6]である。講演では、それらの取り組みについて紹介する。
[1] K. Nagata, S. Sugita, M. Okada, Neural Netw. 28, 82 (2012).
[2] T. Bayes, R. Price, Phil. Trans. Roy. Soc. 53, 370 (1763).
[3] K. Iwamitsu, Y. Furukawa, M. Nakayama, M. Okada, I. Akai, J. Lumin. 197, 18 (2018).
[4] A. Kiridoshi, S. Aihara, S. Arishima, T. Yamashiro, M. Mizumaki, K. Iwamitsu, I. Akai, physica status solidi (b) 255, 1800136 (2018).
[5] R. Tibshirani, J. Roy. Stat. Soc. B 58, 267 (1996).
[6] I. Akai, K. Iwamitsu, Y. Igarashi, M. Okada, H. Setoyama, T. Okajima, Y. Hirai, J. Phys. Soc. Jpn. 87, 074003 (2018).
世話人 安立 裕人(内線7815)