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化学結合の切断で発現する超伝導

IrTe2

 1986年、スイスの物理学者ベドノルツとミュラーが銅酸化物における高温超伝導を発見し、翌年にノーベル物理学賞を受賞しました。 銅酸化物超伝導体の母物質は、銅イオンの持つ磁気モーメント(スピン)が互い違いに規則的に配列した反強磁性体と呼ばれる磁石です。 これに別の元素を添加すると、あたかも氷が融解するように、磁気モーメントの配列がバラバラに融解し、高温超伝導状態が発現します。 鉄系超伝導体や重い電子系超伝導体も同様に、磁気的な秩序(磁石)を融解すると超伝導が現れます。

 回、私たちが発見したIrTe2の超伝導は、磁石の融解ではなく、分子配列の融解(化学結合の切断)によって発現します。 IrTe2は、イリジウム原子が規則的に配列した三角格子からなる層状物質で、室温では正三角形の格子です。ところが約250Kまで冷却すると、 Ir原子がb軸方向に化学結合を形成し、分子状のIr鎖ができあがります。このとき、化学結合ができるb軸が縮み、格子は二等辺三角形へと変化します。 ここに僅か3%の白金(Pt)を添加すると、Ir鎖の全ての化学結合が切断され、その際(きわ)で転移温度3.1Kの超伝導が現れました。

 IrTe2における分子状Ir鎖の形成は、Irのt2g軌道の秩序化が関係していると考えられます。すなわち、t2g軌道に属する dxy, dyz, dzx軌道の一つを電子が選択的に占有することで軌道が規則的に配列し、軌道の電子雲が伸びるb軸方向にだけ化学結合が形成されたという仮説です。 このような軌道の規則的配列は、銅酸化物などのスピンの規則的な配列に類似し、これらがバラバラに融解したところで超伝導が発現することも 互いに類似しています。軌道秩序の実験的観察や、軌道揺らぎによる超伝導など、今後の展開が期待できます。
IrTe2

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