Z+1 approximation

「Z+1近似」とは,原子番号Zの原子に内殻正孔ができた場合の電子のエネルギー準位は,原子番号がZ+1である原子のエネルギー準位で近似できる,という考え方である。内殻正孔の波動関数が局在している場合には良い近似であることが期待される。下の計算ではCu, Znイオンの電子状態をいろいろな電子配置に対して計算したものである。

 

Relativistic self-consistent field calculation for isolated ions
 
[A] Cu2+ : 3d9
[B] Cu3+ : 2p5 3d9
[C] Cu2+: 2p5 3d10
[D] Zn2+ : 3d10
Obrit Nelelctron Energy (Ryd.) Nelectron Energy (Ryd.) Nelectron Energy (Ryd.) Nelectron Energy (Ryd.)
1
1S 1/2 
2
-651.157279
2
-658.473017
2
-656.876046
2
-700.326524
2
2S 1/2 
2
-80.0002611
2
-84.3696304
2
-82.7328578
2
-86.6569166
3
2P 1/2 
2
-70.4281127
2
-75.3283277
2
-73.6955915
2
-76.6141665
4
2P 3/2 
4
-68.9252004
3
-73.7747074
3
-72.1415834
4
-74.8630179
5
3S 1/2 
2
-10.430334
2
-12.1862473
2
-10.6481859
2
-11.1541442
6
3P 1/2 
2
-7.4554062
2
-9.217923
2
-7.689852
2
-7.9725874
7
3P 3/2 
4
-7.2623861
4
-9.0097807
4
-7.4856121
4
-7.7461701
8
3D 3/2 
4
-2.3791085
4
-3.9892507
4
-2.5144099
4
-2.4752529
9
3D 5/2 
5
-2.357103
5
-3.9605395
6
-2.487965
6
-2.4485953
10
4S 1/2 
0
-1.9667141
0
-2.9381614
0
-1.9800025
0
-2.0210043
11
4P 1/2 
0
-1.4903323
0
-2.356886
0
-1.5033472
0
-1.5200593
12
4P 3/2 
0
-1.4791259
0
-2.3393643
0
-1.4920755
0
-1.5077133
13
4D 3/2 
0
-0.8896673
0
-1.5337536
0
-0.900026
0
-0.8980802
14
4D 5/2 
0
-0.8882456
0
-1.5313814
0
-0.8985625
0
-0.8965399

 

表で赤字で記された部分が内殻正孔の存在をあらわしている。青字は3d5/2エネルギー準位を示している。この表から以下のようなことを読み取ることができよう。

 

(1) 内殻ポテンシャル効果

まず[A], [B]を比較すると,3d5/2エネルギー準位が大きく変動していることがわかる。内殻正孔とのクーロン相互作用が極めて大きい事が分かる。

 

(2) 内殻ポテンシャルと3d-3dクーロン相互作用の類似性

一方[A], [C]では,全電子数は同じになっているため,各エネルギー準位の変動は比較的小さくなっている。2p正孔ができることと3d正孔ができることは,エネルギーの観点から言えば,かなり似た効果を持っているといえよう。言い換えれば、2p-3d電子間のクーロン相互作用の大きさは、3d-3d電子間のそれと同程度であるということになる。

 

(3) Z+1近似

[C], [D]の類似性がZ+1近似である。1s内殻準位などについては両者の値はかなり異なっているが,2pより浅い内殻については両者で似ていることがわかる。深い内殻は原子番号の違いをそのまま反映してしまうが,浅い内殻は原子核の電荷と内殻電子の電荷の和を有効電荷として感じているためである。