センター概要

センターの役割

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量子宇宙研究センターでは、素粒子物理学・宇宙物理学・原子分子物理学など物理学の様々な分野で発展した知識・技術を元に、基礎物理の新たな法則を探求することを目指して研究を進めています。

現在、当研究センターで中心的に推進しているプロジェクトは、ニュートリノ質量分光実験です。この実験は、宇宙の物質・反物質不均衡を解明する鍵と見なされているニュートリノの未知の性質、そのマヨラナ性と新たなCP位相、質量絶対値などを決定することを目標にしています。原子・分子を標的として利用する、世界初の野心的な試みであり、準安定励起状態から放出される「ニュートリノ対+光子」のうち、光子のスペクトル測定によりニュートリノ諸性質の謎の解明を目指します。そのために、原子・分子集団のコヒーレンス生成が重要になり、これを原子物理の最新の技術を使って実現しようとしています。

19世紀以前に構築された古典物理学:すなわち力学や電磁気学の知識を工業に応用し花開いたのが20世紀の現代社会と言えます。一方、20世紀初頭に構築された量子力学は、20世紀後半になってようやく工学的に応用されるようになりました。21世紀になった現在、原子や分子、固体の量子的な性質を引き出し積極的に利用することで、これまでにないデバイスの開発など様々な研究が進められています。このような「量子力学の応用」のため、一つの鍵を握るのがレーザー技術です。例えば、レーザーを使って原子の運動を自在に制御する技術の発達により、現在では原子の温度を10 nK (ナノケルビン) という極低温まで冷却することが可能になっています。また、レーザーは電磁波の位相の乱れが非常に小さい「コヒーレント」な性質を持っています。レーザーの持つコヒーレントな性質をうまく利用することで、数mm~10 cmといったマクロな大きさの原子・分子集団の量子力学的な位相が揃ったコヒーレントな状態を作ることが可能になります。最先端のレーザー技術・量子制御技術を駆使し、ニュートリノの諸性質の謎の解明を目指します。これらのプロジェクトは岡山大学極限量子研究コアと共同で進めています。

研究についてのより詳しい内容は以下をご覧下さい.

 

素粒子研究部門

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素粒子物理学は、セルンLHC(Large Hadron Collider)加速器での新粒子の発見により、世間の注目を浴びた。新粒子がヒッグス粒子なら、素粒子物理学の標準模型に登場する素粒子は出揃ったことになる。しかし、それは素粒子物理学の終焉を意味するものではない。素粒子物理学者は、標準模型を越える物理学の新天地に向かって邁進している。

その一つはニュートリノ振動の発見であり、これによりニュートリノが質量をもつという、標準理論では予想されない事実が既に提示されている。しかし、振動現象では、質量の絶対値は測定し得ないことは周知である。また、ニュートリノは、粒子・反粒子が同一粒子であるか無いかにより、マヨラナ型かディラック型かである事も知られているが、長年の原子核標的を使った研究にも関わらずどちらであるか決まっていない。これらの性質の決定は、素粒子物理学にとって非常に重要であるにとどまらず、私達の宇宙の物質優勢の謎の解明の意味でも大変重要である。

本研究部門では、ニュートリノの未知の性質、マヨラナ粒子かディラック粒子か、新たなCP位相、質量絶対値、などの測定を、原子・分子を使って、大学規模の実験室で行う。ニュートリノ質量分光実験を可能にするためには、マクロ規模のコヒーランスを発達させることが必要である。マクロコヒーランス発生の原理を検証するために、量子電磁過程の二光子対超放射実験を世界に先行して実施する。実験原理は岡山大学で提唱したアイディアに基づいており、世界的にユニークな研究が進行している。

宇宙研究部門

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宇宙物理最大の謎の一つは宇宙の構成要素が物質に偏り、反物質が存在しない事実である。この事実の背後に、宇宙初期に物質と反物質の不均衡が存在したこと、宇宙膨張の結果、宇宙が冷えていく過程で、少なかった反物質が物質とほぼ完全に消滅して、多かった物質が取り残されたこと、がある。従って、宇宙最初期にどうして物質・反物質不均衡が存在したかを定量的に説明することが求められる。現在考えられている有力な説は、強い相互作用をしないレプトンに関して、レプトン・反レプトンの非対称性が重い2成分中性粒子の崩壊過程で発生したとする、レプトジェネシス理論である。この非対称性はのちに物質の主要構成要素であるバリオンの非対称性に転化される、ことになる。

レプトジェネシスの根幹部分にあるのは、中性レプトンは3種類あり、各々4成分あるが、他の荷電レプトン(電子、ミュー粒子、タウ粒子)と異なり、各4成分は質量の異なる2成分マヨラナ型粒子2組に分割される、という理論である。重い方の中性レプトン崩壊が宇宙初期に起こり、レプトン非対称性が発生する。軽い方の中性レプトンは標準理論に登場する3種類のニュートリノとなる。さらに、マヨラナ粒子にはクオーク混合行列には存在しない、新たなCPの破れを起こす位相因子が存在し、これが物質・反物質不均衡に関連すると予想される。

本研究部門では、レプトジェネシスの根幹に関わる、ニュートリノのマヨラナ性とCP位相、さらに質量の絶対値(振動実験では分からない)の測定を、原子・分子を使った実験で実施する原理を提唱して、実験に関連する詳細な理論計算・シミュレーションを行っている。さらに、実験で測定されるマヨラナニュートリノの諸量がレプトン・反レプトン非対称性と定量的にどのように関わるかを解明する。

また本研究部門では、星間空間の分子分光の測定のために培った精密レーザー分光の技術とその経験を生かして、ニュートリノの質量分光実験に向けて、原子分子標的の整備を行う。特に本プロジェクトにとり必須条件となるマクロコヒーレンス増幅機構実現に向け、いくつかの原子・分子系でコヒーレント状態の生成、緩和過程について実験を行い、最適なシステムを見いだし、ニュートリノ放射の検出へ適用する。

量子物理研究部門

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原子・分子・光物理学研究は、量子力学的世界の探求の重要な舞台となっています。原子・分子の量子準位の占有数は、レーザーによる準位間の遷移により制御でき、特定の量子準位に状態を用意し、その状態のコヒーレンスや放射を利用して研究を行ないます。一例としては、こうした原子気体をnK (ナノケルビン) という極低温に冷却すると、内部量子状態に自由度を持つ超流動状態が実現し、量子渦や集団運動モードなど、巨視的な量子力学コヒーレンスを持った波動関数の興味深い集団特性が注目され研究が行なわれています。また、レーザーの制御により、準位間のコヒーレンスを持った状態も実現可能で、この準位間結合を利用した新現象の研究も行なわれています。

本研究部門の研究テーマの一つは、原子や分子の気体あるいは固体の量子力学的な性質を引きだし、応用することです。現在主に対象としているのは、高温のBa原子気体と低温の水素分子気体です。ここでは低温水素分子を例に話しを進めます。高性能なレーザー光源を使うことで、水素分子の基底状態|g⟩と振動励起状態|e⟩の間のコヒーレントな重ね合わせ状態を作ることができます。ここで重要なのは、単一分子内の重ね合わせ状態だけではなく、長さ10 cmというマクロな大きさの分子集団全体に渡って量子力学的な位相を揃えた重ね合わせが実現可能であるという点です。これは漫画的なイメージを描くと右の図のように分子が伸び縮みの位相を揃えて振動している状況です。このような状態では、個々の分子は勝手気ままに光を放射するのではなく、協同して光を放射するようになります。分子同士が協同することにより、自然のままであればほとんど起こらない、二光子対超放射などの事象の発生頻度を大きくすることが可能になると考えられます。我々はこのようなコヒーレントな状態を実験的に実現し、二光子対超放射やニュートリノ対放射の観測などに応用することを目指しています。

また、我々の研究目的に耐えうる高性能のレーザー光源は市販されていません。市販レーザーの改良や独自にレーザー光源を開発し高性能化することも重要な研究テーマの一つとなっています。

 

センター人員

【スタッフ】
センター長
 野原 実 教授 (理、兼)

素粒子研究部門
 中野逸夫 教授 (極、兼)
 笹尾 登 教授 (極、兼)
 吉見彰洋 准教授 (極、兼)

宇宙研究部門
 吉村太彦 教授

量子物理研究部門
 市岡優典 教授 (理、兼)
 植竹 智 准教授

【大学院生】
 堤 康輔 大学院自然科学研究科博士前期課程 2年
 岩崎 達郎 大学院自然科学研究科博士前期課程 1年
【学部生】
 森 直樹 理学部物理学科 4年
 大久保 翔 理学部物理学科 4年
 岡井 晃一 理学部物理学科 4年

【秘書】
 金山みどり

[注]
(理、兼) は理学部専任、センター兼任所員
(極、兼) は極限量子研究コア兼任所員

【卒業生】
 大饗 千彰 → 電気通信大学