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石野(コラボレーション棟603号室、内線7818)までお尋ねください。

宇宙背景放射

宇宙背景放射は、約137億年前に宇宙に放たれた人類が見ることができる最も古い光です。宇宙背景放射は、ごく初期の宇宙の情報を持っているので、宇宙背景放射の観測から、宇宙の誕生とその背景にある基本的物理法則の謎を解き明かすことができると期待されています。我々研究グループは、高エネルギー加速器研究機構と理化学研究所と連携して、宇宙背景放射検出のための、高感度超伝導検出器の開発とその読み出しシステムの構築を行っています。大変スケールが大きい宇宙物理から、ミクロな超伝導の世界とその応用を知りたい方、是非いらしてください。

宇宙背景放射とは?

図1.超伝導トンネル結合素子(STJ)の 顕微鏡写真。 写真の一辺は約500ミクロン。 ひし形の部分がSTJである。

宇宙がビックバンでできあがった直後は、電子、陽子、中性子、光子がばらばらに飛びかう超高圧、超高温の世界でした。この世界では、原子が存在せず、原子ができたとしても、エネルギーの高い光子によってすぐに電離されてしまいます。また、光子は自由電子とトムソン散乱を繰り返しており、宇宙はまるで濃い霧の状態のように遠くまで見渡すことができませんでした。

時間がたつにつれて、宇宙は膨張し冷えていくにつれて、光子のエネルギーが下がり、ビックバンから38万年後には、光子は中性水素原子を電離する程のエネルギーを持たなくなりました。電子は陽子に捕われ、中性水素原子ができるため、光子は電子とは散乱せず自由に動きまわることができるようになったのです。これはあたかも、宇宙の遠くまで見渡せる状態になったことを意味し、宇宙の晴れあがりといいます。

宇宙の晴れあがり以降、この光子の殆ど(90%程度)は、現在にいたるまで自由に飛びまわっています。この光は、宇宙史の中で我々が見ることができる最も古い光であり、どんなに遠く離れた星や銀河よりもさらに向こうからやってきます。宇宙の「背景放射」と呼ばれる所以です。宇宙背景放射は、波長にして約2mmであり、ミリ波領域にあります。

宇宙背景放射から何がわかってきたか

図2. STJの性能を評価するためのクライオスタット。ヘリウム3を使い、0.3Kまで冷却する。

宇宙背景放射は、1965年にアーノ・ペンジアス博士とロバート・ウィルソン博士によって発見されました。両博士はこの業績により、1978年にノーベル物理学賞を受賞しています。

1989年に打ち上げられたアメリカの衛星COBE(コービー)によって、宇宙背景放射は、温度にして2.7K(マイナス270度)の黒体放射であり、また、宇宙全体でわずか10万分の1の差の温度揺らぎがあることがわかりました。前者は、宇宙初期は超高温・超高圧の火の玉であるというビックバン理論の確実な証拠となり、後者においては、現在見られる宇宙の大規模構造をつくった「種」を発見したのでした。この業績によって、ジョン・マザー博士とジョージ・スムート博士が2006年にノーベル賞を受賞しました。

その後、温度揺らぎをより詳細に調べるために、2001年にWMAP衛星が打ち上げられました。観測結果、宇宙の年齢は137億歳であり、宇宙の組成の95%は正体不明のダークマターとダークエネルギーから構成されていることがわかりました。

宇宙背景放射の今後

図3.アルミニウムSTJのIVカーブ。横軸がSTJにかかる電圧。 縦軸がSTJに流れる電流。 階段状になっている部分が、 STJが超伝導になっていることを 示す。

今後の課題は宇宙背景放射の偏光を測定することです。光波は進行方向に垂直な向きに電場と磁場が交互に振動し伝わります。電場の方向がある偏りを持つと、光波は偏光を持つといいます。宇宙背景放射も偏光をもっていることが知られています。全天での宇宙背景放射の偏光分布をつくると、EモードとBモードと呼ばれるパターンに分解することができます。Eモードは、WMAPにより粗い精度で測定され、宇宙再電離に対して知見を与えました。一方Bモードは、主に宇宙初期重力波によって生成されると考えられますが、大変信号が小さいので、まだ検出されていません。現在稼働しているWMAPでもBモード検出には15年以上かかり、運用期間(8年)以内では検出は無理です。この宇宙初期重力波は、ビックバンが起る前のインフレーション時につくられたと考えられています。この重力波を検出できると、インフレーションを引き起こすエネルギースケールや、その機構等を解明できる可能性があり、宇宙背景放射のさらに向こう側を覗くことができるのかもしれません。

超伝導検出器の開発

図4.アンテナ結合型STJのレチクル設計図。 この設計をもとに、アンテナ結合型STJを 製作する。

上述のように宇宙背景放射の偏光は大変弱い信号であるので、現存している検出器よりもさらに高感度な検出器が必要です。私達の研究室では、高エネルギー加速器研究機構と理化学研究所と連携して、超伝導検出器を用いて、ミリ波をこれまでにない感度で検出するシステムを構築し、将来宇宙背景放射の偏光測定を目指しています。

超伝導体は、二つの電子がクーパー対をつくることにより発現します。外からミリ波を照射すると、クーパー対が壊れ、電流となって取り出すことができることが知られています。私達はこの現象を利用した、新しい超伝導トンネル結合素子(Superconducting Tunnel Junction, STJ)の開発を行っております。図1に示すのは、STJの実物写真で、大きさは約50μmです。図2は理化学研究所にあるクライオスタットを用いた低温実験のセットアップです。図3はSTJのIVカーブをオシロスコープで測定した結果です。超伝導特有のギャップが見られます。また、現在は図4にしめすような、アンテナが結合したSTJの製作をおこなっております。

この研究によって得られること

私達の研究は、将来の宇宙背景放射検出を目指しております。そのためには、宇宙物理学と素粒子物理学のある程度の知識が必要です。また検出器開発・実験には、電磁気学、量子力学、低温物理とその実験技術、超伝導理論、電子回路などありとあらゆる物理の知識を総動員し、駆使しなくてはなりません。

量子力学が支配するミクロ現象を利用した検出器で、最も遠い宇宙を探りたい方、是非来て下さい。