d 波超伝導体における渦糸構造

 


 d 波超伝導体における孤立した渦糸の構造を,
Eilenberger方程式(準古典近似法)を数値的に
セルフコンシステントに解くことによって求めた.

ここでのd 波は高温超伝導体を想定して d_{x^2-y^2} 波とする.
計算したのは,ペアポテンシャル,電流分布,磁場分布 
及びそれらの温度変化である.

またセルフコンシステントに得たペアポテンシャルに対し,
局所状態密度を計算した.

これらの結果として,d 波超伝導体における渦糸構造は,
s 波の場合の円筒対称な構造とは対照的に,
四回対称の異方的構造をもつということが分かった.


 これまで,d 波の渦糸でのこのような四回対称の構造は,
2成分Ginzburg-Landau (GL)方程式を用いた 
Ren et al. 及び Berlinsky et al. によっておもに議論がされてきた.

それによると,d 波渦糸の四回対称な構造は,
四つ葉のクローバー型のs 波成分の混成によって現れる.

しかしながら,実際の高温超伝導体において,
この混成が渦糸構造に十分な影響をもつほどに大きいものであるかどうか
は疑問である.


 我々は,このs 波成分の混成が十分に小さいという前提のもとで
解析を行なった.

s 波の混成を無視した場合,d 波の超伝導に対するGL方程式は,
通常の次数までにおいてはs 波のものと全く同じ形をもつ.

したがってその限りでは,d 波の渦糸に異方性は現れ得ない.

しかし,
厳密にはそのようなGL方程式が有効であるのは転移温度近傍のみである.

より低温の領域においては,より高次の項の影響が無視できなくなる.

d 波の場合これらの高次項が,渦糸に四回対称の異方性をもたらす.

我々は,
任意の温度領域で有効である準古典近似法を用いることによって,
このGL高次項の影響を自動的に取り込んだ結果を得ることができた.


 今回得た結果のうち特に局所状態密度に現われる特殊な構造は,
実際にトンネル走査顕微鏡(STM)による実験において
観測されることが期待される.


走査型トンネル顕微鏡 による渦糸観察
参考: Bell研 Dr. Harald Hess の ページ
 -> http://www.bell-labs.com/new/gallery/slat00.html

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