空間変調した超伝導・超流動状態のトポロジカルな性質
−Fulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov 状態の実現へ向けた理論的提案−


BCS 理論によると、低温において, 波数 k を持つスピン S_z = 1/2 とその反転対称な電子 (S_z = -1/2, 波数 -k) とが引力相互作用をするときクーパー対を形成し, 金属は超伝導状態へ相転移します。一様磁場下での (1重項) 超伝導状態の安定性は「反磁性効果」と「常磁性効果」という2種類の対破壊効果の競合の結果として決定されることが知られています。後者の対破壊効果は一様磁場が電子の持つ磁気モーメントと結合することで各スピン状態の電子のフェルミ面をゼーマン分裂させることに起因します。この効果が顕著な状況では、フェルミ面の「ずれ」のため、通常の BCS 理論のように運動量 k と -k の電子が対を形成するのではなく、k と -k+Q が対を形成するいわゆる FFLO 状態が安定となります (下図左が通常の BCS 状態、右側が FFLO 状態に対応。右図において、二つの同心円は各スピン状態の電子のフェルミ面)。この結果、電子対は有限の重心運動量 Q を持ち、この運動量は対ポテンシャルの空間変調として表われます。



この空間変調した超伝導状態は 1964 年に Fulde と Ferrell 及び Larkin と Ovchinnikov によって独立に提案されて以来40年間、その研究の場は超伝導体のみならず、原子核及び中性子星等の高エネルギー物理分野へも広がりを見せています。しかしながら、現在まで FFLO 状態を観測したという報告はなされていません。また超伝導体では、たとえ常磁性効果が十分強くても、必ず反磁性効果に起因した磁束渦糸を伴います (超伝導体が磁束を導体内部に取り込んだ際、その磁束周りに渦状に電流が流れるため磁束渦と呼ばれます)。FFLO 状態及び磁束渦糸状態各々の性質はよく調べられていますが、一方で、その両者が共存した系の、特に、電子状態については全く理解されていませんでした。そのような動機から、我々は磁束渦糸を持つ FFLO 状態の電子状態について微視的理論である Bogoliubov-de Gennes 理論を用いて解析しました [1]。

一般に、対ポテンシャルが空間変調しノードを持つ場合、そのノード近傍に束縛状態が形成されます。この束縛状態はフェルミエネルギーに等しいエネルギーを持つので、一様磁場下ではフェルミ面のゼーマン分裂によりこの束縛状態の占有差が生じます。その結果、磁場により誘起された常磁性成分は対ポテンシャルのノード面、つまり FFLO ノード面と磁束渦糸に局在することになります。しかしながら、我々の微視的計算の結果、FFLO ノードと渦糸とが交差する領域において常磁性成分の欠如が見られました (下図参照)。また、この領域において電子状態も通常の BCS 理論により期待されるものから劇的に変更されることが分かりました。これらは FFLO 変調と渦糸とが共存する系に特有の現象であり、「対ポテンシャルの持つトポロジカルな性質」と「クーパー対の重心運動量 Q に起因した準粒子エネルギーのドップラーシフト」として解釈されることを見いだしました。これらの結果は非 BCS 超伝導体の微視的状態に対する新たな知見を与えるだけでなく、X 線及び中性子散乱、或いは STM-STS 等のような実験を用いて直接的に観測可能です。これらの知見は FFLO 状態と通常の BCS 状態とを区別するための決定的証拠となり得ると期待されます。

また論文 [2] では、近年その超流動性が活発に議論されている中性フェルミ原子気体系において、FFLO 状態実現の可能性について議論し、その観測手法の提案を行いました。この系は Feshbach 共鳴という手法を用いて実質的にクーパー対の結合力を精密にかつ自在に制御することができるため、FFLO 状態実現へ向けた理想的な環境を整えているといえます。我々はこの点に着目し、FFLO 状態が実現されるための最も適切な条件を提示しました。加えて、論文 [1] でも指摘した FFLO 状態特有の現象である常磁性成分の局在化が既存の実験手段を用いて観測可能であることを指摘しました。実際に、海外の実験グループがこの系での FFLO 状態実現に向けた実験をスタートさせており、現在、我々は理論的側面からのサポートを試みています。

[1] T. Mizushima, K. Machida, and M. Ichioka, Phys. Rev. Lett. 95, 117003 (2005).
[2] T. Mizushima, K. Machida, and M. Ichioka, Phys. Rev. Lett. 94, 060404 (2005).




FFLO 空間変調と磁束渦糸とが共存する場合の超伝導対ポテンシャル (左図) と外部磁場により誘起された常磁性成分の空間分布。FFLO ノードは渦糸に垂直であるとして、両図とも渦糸に沿った断面図を示す。