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作田(コラボレーション棟501号室、内線7822)または 石野(コラボレーション棟603号室、内線7818)をお尋ねください。

超新星からのニュートリノ実験

私達の研究室は、東京大学宇宙線研究所のスーパーカミオカンデにおいて、超新星爆発起源のニュートリノの探索を行います。また将来には、Gd(ガドリニウム)を使った反電子ニュートリノに対して世界最高感度を持つ検出器の開発を目指しています。超新星爆発は、我々自身、そして地球の元となる重元素物質を宇宙にばらまく役割をもっています。すなわち、超新星爆発ニュートリノの検出は我々の物質世界の元が宇宙開闢以来どのようにしてできてきたのかを解明する手がかりを与えます。宇宙物理に興味がある方、ニュートリノに興味がある方、是非私達の研究室にきて、宇宙からやってくるニュートリノの研究をしましょう。

ニュートリノとは?

図1. スーパーカミオカンデ検出器内部の写真。壁一面に20インチ光電子増倍が設置されている。

我々のいる宇宙は、全て素粒子からなりたっています。素粒子とはそれ以上分解できない粒子のことです。例えば、原子は電子と原子核からできています。電子はそれ自身素粒子です。原子核は陽子と中性子がいくつか糊づけされたものです。さらに陽子と中性子はそれぞれ三つのクォークから構成されており、クォークは素粒子です。

この世の中には奇妙なことに、殆ど相互作用をしない素粒子が存在します。それがニュートリノです。相互作用とは素粒子どうしが力をやりとりすることで、重力、電磁力、強い力、弱い力の4種類あることが知られています。クォークは強い力でもって陽子または中性子をつくり、原子核と電子は電磁力でもって原子をつくります。さらに大きなスケールでは、地球は我々を重力で束縛し、地球自身は太陽の周りを重力相互作用しながら回っています。一方ニュートリノは弱い相互作用しかしません。この相互作用は文字通り大変「弱い」力で、上でみたような束縛状態をつくることができません。

図2. 20インチ光電子増倍管の写真。大変微弱な光を高感度で検出する。

ニュートリノは、1930年にヴォルフガング・パウリ博士によって初めて提案されました。ベータ崩壊のエネルギー保存則を満たすために導入されたのです。その後、1954年にフレデリック・ライネス博士とクライド・コーワン博士により、史上初めてニュートリノが検出されました。1995年にこの業績により二人にはノーベル物理学賞が与えられました。その後の研究により、ニュートリノは全部で6種類あり、かつわずながら質量をもつことがわかっています。

研究内容

スーパーカミオカンデは岐阜県飛騨市神岡町の山の地下1000mに設置された世界最大の検出器です(図1)。検出器は円筒形で、その直径は40m、高さが42mです。10階建のビルがそのまま入ることができます。その中に超純水50000トンを蓄えています。ニュートリノが検出器内で相互作用を起すと、電子やミューオン等の荷電粒子が発生します。これらの荷電粒子は水中でチェレンコフ光という微弱な光を出します。その光を、検出器壁面に設置してある約12000もの、これまた世界最大の、20インチ光電子増倍管(図2)で検出します。

図3. 小型水チェレンコフ装置の概要図。右に透過率測定装置、左に純水装置がある。

超新星爆発は、1987年の大マゼラン銀河で起きて以来現在まで我々の銀河あるいはその近傍では起きていません。しかし、銀河ひとつあたりに起きる頻度は10年から30年に一度ともいわれています。従って、もうじき起きるのかも知れません。いつ起きても直ちにニュートリノバーストを発見できるよう、準備する必要があります。我々研究室では、ニュートリノバーストをリアルタイムで検知するシステムの維持・管理・開発を行っています。また、継続的に取得されているデータに基づいて、入念な物理解析を行うことにより、見過ごされていたニュートリノバーストの探索も行っています。

宇宙ができて以来、宇宙のあちらこちらで超新星爆発が起きていたはずです。従って、超新星爆発時に生成された残存ニュートリノも沢山存在するはずです。私達の研究室はこのニュートリノ検出も目指しています。もしこのニュートリノを検出し、その流量がわかると、宇宙開始以来宇宙全体で何回超新星爆発が起きたのかがわかります。このことから、我々や地球をつくる元素が宇宙にどの程度あるのかがわかるのです。現在スーパーカミオカンデではこの残存ニュートリノの検出はなされていませんが、理論が予言している流量の上限値にもう少しで手が届くところです。しかしながら、残存ニュートリノ信号事象に似た偽事象(バックグランド事象)が存在するために、これ以上の改善は望むことができません。そこで、将来スーパーカミオカンデにGd(ガドリニウム)をいれて、反電子ニュートリノの検出感度をさらにあげることを目指します。

図4. 小型水チェレンコフ装置のシミュレーションの様子。

ニュートリノには全部で6種類あると、上で述べました。超新星爆発ではこの6種類全部のニュートリノが放出されます。ところで、スーパーカミオカンデの検出器のニュートリノのターゲットは純水ですが、実は6種類の内の一つである反電子ニュートリノが最も水(実際には水素原子核、つまり陽子)と相互作用しやすいのです。もしこの反応が起きると、陽電子と中性子が発生します。陽電子はチェレンコフ光を放出し、検出されます。一方中性子は、現在のスーパーカミオカンデのデータ収集システムでは検出するのが難しいです。実は、この中性子を効率良く検出することができると、背景事象をうまく落すことができ、残存ニュートリノの感度をずっと改善することができるのです。Gdは中性子を吸収する能力が他の元素に比べて格段に大きく、かつ吸収後に放出されるガンマ線は、エネルギーが十分大きいために、スーパーカミオカンデでも容易に検出できます。要約すると、Gdを用いて中性子を検出することにより、反電子ニュートリノをこれまでにない感度で検出することができるようになるのです。我々研究室は、Gdを水に溶かしたときの影響や、中性子検出効率を測定するために、東大宇宙線研究所のスーパーカミオカンデグループと連携して小型水チェレンコフ検出器(図3)を作ることを目指し、その設計や大きさを決定するために、Geant 4を用いたシミュレーション(図4)やハードウェアの物質選定といった研究を行います。

この研究で得られること

スーパーカミオカンデは、水チェレンコフ検出器として数々の成果をあげてきました。それに中性子検出能力が加わると検出器の性能が質的に向上します。新しい技術は新しい検出技術に伴って生まれました。

宇宙物理、特に宇宙論・星形成理論、と素粒子物理の知識を得ることができ、また、ニュートリノ検出のための実験技術、データ解析ソフトの構築技術を身に付けることができます。宇宙・素粒子・ニュートリノに興味がある方、是非我々の研究室にきてともに開発研究していきましょう。